祇園祭 橋弁慶山の前懸が完成しました 祭礼幕の復元新調
- CASE STUDY
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京の夏の風物詩「祇園祭」。例年7月になると街中が祇園祭一色になり、何となく活気づいてきます。今年は残念ながら規模を縮小して実施されることとなり、祭のクライマックスともいえる山鉾巡行は中止されますが、無病息災を祈る神事として、また、伝統を後世に伝えていくため、来年・再来年へ向けた準備は着々と進められています。
目次
山鉾巡行を彩る山鉾のひとつ「山伏山」。ご神体が山伏の格好をしているので、そう呼ばれています。この山を彩る水引幕が復元新調され、2021年7月10日にお披露目されました。
山伏山の水引は、蚕を育て、糸をひき、織物を織り、献上するところまでが描かれた綴織で、「養蚕機織図綴錦」(ようさんはたおりずつづれにしき)と呼ばれています。約200年前の江戸時代後期に製作された幕と同じデザインのものを当時の姿になるべく近い形で製作する“復元新調”といわれる形で製作をしました。
2015年に復元することが決定し、6年間の調査研究・製作を経て、今年3月にすべての幕が完成しました。
今回の復元新調は、次の手順ですすめました。
元の幕(旧幕)の調査
仕様決定
原画・下絵の制作
染色
製織
仕立加工
私達は、まず、200年前に製作された旧幕を拝見しました。
江戸時代後期、約200年前に日本で製作されたとされるこちらの幕は、とても精緻で登場人物がいきいきと描かれ(織られというべきでしょうか)織物屋として見入ってしまうとても魅力的な幕でした。ただ、長い年月を経ての劣化はそこここに見られました。劣化、退色、歪み、収縮、破損・・・。
実り多き復元となるよう、心を込めて作業に取りかかりました。
復元の作業では、はじめに、旧幕の調査に取り掛かります。
丁寧に観察していき、電子顕微鏡での拡大写真の撮影、素材分析、色調調査などを行い、旧幕の製作当時の状況や作り方を想定していきます。
今回の調査では、
素材の多くは絹糸である
経糸(たていと)は2本の糸をより合わせたものである
40色ほどの色糸で製作されたと考えられる
しかし黒・茶系の劣化が激しく、60色ほど使われていた可能性もある
孔雀の羽が使われている箇所がある
などが分かりました。
そして調査結果に基づき、保存会の方々、有識者、当社技術者などで何度も検討を重ね、新調する幕の色や素材などの詳細を決めていきました。
調査・検討の結果に基づき、新調幕用の原画と織下絵を製作します。
旧幕の上にビニールを乗せ、旧幕のデザインを写し取っていきます。
写真を撮ってデジタルデータで作業をするなどの方法も考えられますが、繊細な幕に織り込まれた繊細な「線」の解釈が必要なので、この工程はデジタル化せず、手作業で行っています。
長年使われた幕は、歪んでいたり、傷んで分からなくなっている箇所もあります。
欠落カ所を追記しながら、全体の歪みを調整していきます。
1度下描きをしてから清書をして、構図を仕上げました。
完成した構図に色を付けていき、原画を完成させます。
原画をもとに、経糸の下に敷いて織るための「織下絵」を制作します。
裏向けで織っていくため、織下絵は左右が反転しています。
出来上がった原画、織下絵を元に、使う色を決め、糸を染めていきます。糸は技術者が手作業で染めました。とても繊細なデザインのため、約70色の糸を使用しました。
200年前の織物を再現するのですから、織るのももちろん手織りです。
技術者が足元のペダルを踏んで経糸(たていと)を上下に動かし、その間に通した緯糸(よこいと)で柄を表現していく綴織(つづれおり)という方法で織り上げました。
綴織は、デザインの指示書でもある「織下絵(おりしたえ)」を経糸の下に置き、その絵を見ながらぬり絵をするように織っていきます。技術者が自身の爪に刻んだノコギリの刃のような溝で緯糸をかき寄せることから、爪かき綴と呼ばれることもあります。
1寸(約3.03cm)間に約45本の経糸が通る、とても細かい繊細な織物です。
6年間で4枚の水引を織り上げました。
今年は、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から山鉾巡行が中止されたため、山にかけられた様子を見る事は出来ません。
この水引幕が掛けられた山伏山が京の街を巡行する姿を目にする日を楽しみにしています。
山伏山 水引「金地 養蚕機織図 綴錦」
二番水引「緋羅紗地 草花文様 刺繍」