祇園祭 橋弁慶山の前懸が完成しました 祭礼幕の復元新調
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日本三大祭りのひとつ「祇園祭」。疫病退散を祈願した「祇園御霊会(ぎおんごりょうえ)」にはじまり、その歴史は平安時代にまで遡ります。毎年7月1日~31日までの1カ月間にわたって、さまざまな祭事が京都市内の中心部や八坂神社で行われる京都の夏の風物詩です。
目次
祇園祭の見どころのひとつが“動く美術館”とも呼ばれる「山鉾巡行」。豪華絢爛な懸装品で飾られた山鉾が祇園囃子を奏でながら都大路を練り歩きます。前祭(さきまつり)巡行、後祭(あとまつり)巡行に分かれて、それぞれ17日と24日に行われます。
さらに「山鉾巡行」の前夜祭として行われる「宵山」も祇園祭の楽しみのひとつ。街中には提灯が灯り、山鉾を間近に鑑賞できます。夏空に コンチキチン♪ とお囃子が響き渡り、情緒豊かな京都の夏を味わえます。
「山鉾巡行」「宵山」の楽しみ方として、ぜひご注目いただきたいのが山鉾に飾られた懸装品。懸装品とは、山鉾に飾られる装飾品のこと。なかでも前懸(まえかけ)や胴懸(どうかけ)、見送(みおくり)、水引(みずひき)などの染織品は、西陣織をはじめ中国やベルギーなど舶来の織物などもあり、どれも貴重なものばかりで、観る者を楽しませてくれます。
今年、特にお楽しみいただきたいのが、「白楽天山」の復元新調された懸装品。「白楽天山」は人が担ぐ舁山(かきやま)のひとつで、唐の詩人・白楽天が老松の上に住む道林禅師に仏法の大意を問いかける場面を表しています。この山を飾る前懸と水引が約400年ぶりに復元新調され、当社が製作を担当しました。復元新調された前懸と水引は、2023年5月9日にお披露目されました。今年の山鉾巡行で山に掛けられます。
私たちは、まず約400年前に製作された前懸と水引(以降 旧前懸、旧水引)を拝見しました。旧前懸・旧水引のいずれも美しい色調で植物や人物が生き生きと表現されており、魅力的な織物でした。デザイナーや技術者曰く「現在、当社が良く扱うシルクよりもウールは毛羽立ちやすく切れやすい素材なのに・・・」「400年前に、こんな高度な技術が既にあったのか・・・」とため息が出たほど。
白楽天山の旧前懸(重要文化財)は、16世紀にベルギーのブリュッセルで製作されたとされ、古代ギリシャの長編叙事詩「イリアス」のなかの「トロイア陥落図」の一場面が描かれています。幕末の1860(安政7)年に、山鉾のひとつ「蟷螂山(とうろうやま)」から購入されたものです。
中央部にブリュッセル(ベルギー)で製作されたタペストリーが、そしてその両サイドには紺地に龍と波の模様の幕を配した構成となっています。中央のタペストリーは、ヨコ糸にウールとシルク、タテ糸にウールを用いた毛綴織です。
旧水引は1978年にフランスより輸入されたタペストリー。
旧幕は前懸と水引のいずれも経年劣化により破損が激しいため、2022年の4月から約1年を調査研究・製作を経て復元・新調しました。
幕の復元・新調に必要不可欠なのが、原画と織下絵です。織下絵とは織物を織る際の設計図となるような絵です。
原画製作は、旧前懸・旧水引の上に透明なビニールシートをかぶせ、旧幕の画を写し取り、それをさらに紙に清書し、完成した構図に彩色するという工程で進めました。しかし、長年使われてきた旧前懸・旧水引は経年劣化が激しく、元の画を写し取ることが困難な状態でした。注意深く織物を観察し、異なる色の細かい境目を探し出すなど、元の画を想定しながらの製作となりました。
祭礼幕の復元・新調は長きにわたり使用されてきたことで経年変化が進み、退色もしているため、画だけでなく材料等の特定も困難であることが多くあります。また製作地や時代によっては、現在ではほとんど用いることのない技法で作られているものもあります。復元・新調が、過去のデータの分析や、技術者の経験が必要となるゆえんです。
原画が完成したら織下絵を製作します。今回復元した織物は裏向けで織っていくため、織下絵は左右が反転しています。色の指示を数字で細かく書き入れ、織担当者に伝わるようにします。そして、織下絵をもとに部分的に試し織りを繰り返し、全体の色目を調整してすべての配色を決定しました。最終的に使用した色数は、前懸には400色、水引には250色! 新調に復元をすすめていきました。
まさに、ベルギーやフランスで先人たちが創りあげた織の追体験でした。
旧前懸中央部のタペストリーは、もともとは1枚の大きなタペストリーで、それが3等分され、そのうちの一部が白楽天山の前懸に、残りの2枚は大津祭の月宮殿山(げっきゅうでんざん)と龍門滝山(りゅうもんたきやま)の見送になっています。3等分していたため、白楽天山の前懸で使用部分のタペストリーは、右側の人物の顔が見切れてしまっていました。今回の復元新調で、全顔がわかるように改良されました。鑑賞の際は、ぜひご注目ください。
旧幕は、タペストリーの両サイドに紺地の幕が配されています。今回、復元新調を進める中で、両サイドの幕は、保存会の倉庫内で偶然発見されたもの(制作年や制作者は不明)を使用させていただく事となりました。ただ、前懸として仕立てるには、数㎝丈が足らず、足りない部分を新たに製作し、繋ぎ合わせ、前懸の中心部のタペストリーと縫い合わせて、前懸に仕立てました。
今年の祇園祭は、国内外から多くの方が訪れ、一層賑やかな祭りになりそうです。
復元新調された前懸・水引が掛けられた白楽天山が京の街を練り歩く姿を当社も楽しみにしています。ご旅行や観光で祇園祭にお越しにの際には、壮麗な山鉾鑑賞はいかがでしょう。
川島織物セルコン 生産部美術工芸生産グループ 中村 光宏
祭礼幕は ユーザーの顔が見える“一品物”
当社が復元や新調をさせていただく祭礼幕は、全て“一品物”です。
製作させていただく幕は全てがオリジナルで、一点一点、デザインも素材も大きさも作り方も異なります。使ってくださるユーザーの方々を想像しながら、心を込めて製作しています。
復元は想像力と経験が必要 若手への技術継承も
祭礼幕の復元新調とは、古い時代に製作された幕と同じデザインのものを当時の姿になるべく近い形で製作するという手法。長きにわたり使用され、経年の変化から製作当時の色や形がわからなくなっている幕を復元新調する際には、今まで携わらせていただいた幕で得た経験や、当社の古い資料を調べながら “想像” することが求められます。
私も経験を少しずつ積んできたように、若手の従業員にこのような機会に積極的に関わってほしいと思っていたところ、今回の復元新調では、数名の若手技術者にも携わってもらう事が出来ました。
とても貴重な伝統継承の場となり、復元新調が出来たという事に加え、とてもありがたい経験となりました。
一緒に作業が出来た若手技術者も、「ウールという毛羽立ちやすく、切れやすい素材を扱うことに苦労した」「復元新調を通じて先輩から多くを学べた」「完成したときは嬉しく、少し名残惜しくもあった」「達成感のある復元新調に関われたことが嬉しい。またこのような機会をいただけるのであれば、是非、携わりたい」とそれぞれ話しました。
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