美しき古裂の世界へのいざない 裂地コレクションで43年 川島織物セルコンのカレンダー
- CULTURE
雪輪(ゆきわ)の文様をご覧になったことはありますか?
雪の結晶が文様化されたもので、雪は春の豊富な雪解け水を意味することから ”豊作をもたらす” と、吉祥文様のひとつに数えられる文様です。
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記録的な暑さが続いています。少しでも快適に夏を乗り切るため、どんな工夫をしていますか。近年では様々な冷感グッズが開発され、お使いの方も多いことでしょう。また「クーラーの効いた部屋で味わうフワフワかき氷」は、想像しただけでも最高のクールダウンアイテムですね。
では、ひと昔前までは、どのように涼を取っていたのでしょうか。
ただ暑いだけでなく、盆地ならではの蒸し暑さが際立つ京都の夏には、昔から涼を取る知恵や工夫がたくさんありました。例えば、京都の町屋は「うなぎの寝床」と言われる細長い家屋ですが、襖(ふすま)を簾戸(すど / 簾(すだれ)をはめ込んだ建具)に替え、網代(あじろ)に編んだ籐(とう)の敷物を敷き、夏座敷にしつらえを替えます。家の表には打ち水をし、気化熱を利用して発生させた涼しい風を、坪庭と呼ばれる中庭との気圧差を利用して、家の中に取り込みます。その坪庭の軒先には音で楽しむ風鈴。三角に切った外郎(ういろう)を氷に見立てたお菓子「水無月(みなづき)」。湯上りの浴衣に団扇で夕涼みなどなど、衣食住のすべてに涼を取り入れてきました。
中でも着るものは、季節を先取りした文様(デザイン)を用いることで、涼を目で感じることができます。夏に用いる季節を先取りした文様と聞いて、何を思い浮かべますか。よく使われるのは、より涼しさを感じるために秋を跳び越し冬をイメージさせる雪のデザイン、それもただの丸ではなく、よりフワフワ感が出るようにデザイン化された「雪輪(ゆきわ)」です。もちろん冬にも季節を表すものとして良く使われる文様ですが、夏の衣装のデザインとしても良く見られます。
室町時代末期から戦国時代にかけて登場したこの雪輪。女性に劣らずおしゃれだった男性の衣裳にも用いられ、江戸時代初期には流行の最先端を行く文様の一つとなりました。そして、形は丸に切れ込みを入れたものが主流ですが、切れ込みの深さや数、丸みがあるものから鋭いものまで、多種多様に幾種類もの雪輪が自由自在に描かれました。
当時の人々が雪をどう表現しようとしていたか、豊かな日本人の感性が伝わってくるようです。これらのさまざまなバリエーションが、現在のような鋭い切れ込みがあり雪の様子がよりイメージ出来る形に整えられていったと考えられます。
そして本来、雪輪は冬の雪をイメージした文様でしたが、その輪郭を活かして中に別の文様をいっぱいに詰め込み、一層豪華にデザインしたものや、逆に輪郭の一部を切り取って、大きな弧(こ)を描くように斬新な構図をつくりあげるなど、無限大の発想は、多種多彩な雪輪文様を生み出してきました。
例えば、夏の着物に締める絽の帯(最上部写真)。水の流れる様子を表した文様(観世流水)とあわせ涼しさを演出しています。また、雪輪の中に松や竹を詰め込むことにより、華々しさや豪華さを一層際立たせた昭和初期に製作した丸帯や、かなり大胆に柄を取ることで、より絢爛に柄を表現した江戸時代初期の小袖など、様々な雪輪の使われ方があります(いずれも川島織物文化館蔵)。
そんな雪輪の、江戸時代初期の大胆な使い方を示す資料が、川島織物文化館にあります。当時、京都屈指の高級呉服商であり、尾形光琳の生家としても知られる雁金屋(かりがねや)の小袖注文帳控『御用雛形帳』(ごようひながたちょう)です。
こちらは徳川秀忠の娘で後水尾天皇の中宮となり、当時のベストドレッサーとしても名高い東福門院和子(とうふくもんいんまさこ)が注文した小袖のデザインです。正装としてではなく、御所の私的な場で着ていたものと考えられています。
右ページは背中部分の柄で、雪輪が用いられています。「どこに?」と探してしまいますが、実は背面いっぱいに斜めに描かれた線は、幾重にも重ねた雪輪の一部です。よく見ると線も少しだけ湾曲していて、巨大な弧の一部が描かれているのが想像できます。また、規則正しく凹凸を繰り返し、あの雪輪のフワフワ感が表現されています。
仕立て上がりの小袖を想像して、ほんの少しだけ涼を感じてみて下さい。
現在、この『御用雛形帳』が、江戸東京博物館(東京都墨田区)で開催中の特別展「大江戸の華―武家の儀礼と商家の祭―」で公開されています。開催期間中に行われる展示替えで、展示ページが変更される予定です。
川島織物文化館でもめったに展示しない貴重な資料です。機会がありましたら、足をお運びください。
会期 | 開催中 〜 2021年 9月20日(月・祝) |
会場 | 東京都江戸東京博物館 1階特別展示室 東京都墨田区横網一丁目4番1号 |
開館時間 | 9:30 ~ 17:30(入館は17:00まで) |
休館日 | 月(8月16・30日、9月20日は開館) |
関連リンク | 特別展「大江戸の華―武家の儀礼と商家の祭―」 |
その他 | ※詳細は江戸東京博物館にお問い合わせ下さい。 |