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帯メーカーが徹底解説! 着物の帯の種類・名古屋帯編

帯メーカーが徹底解説! 着物の帯の種類・名古屋帯編

着物姿に欠かせない「帯」。
前回は帯の種類・寸法・格・着物との合わせ方帯講座で帯の種類についてご紹介しましたが、今回は特に名古屋帯について掘り下げていきます。

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袋帯は、締めた姿が格調高く映えるため、フォーマルシーンに好適とされるのに対し、袋帯より短く軽い名古屋帯は、和のお稽古やちょっとしたお出かけなどのカジュアルシーンにビギナーから愛好家まで広くお使い頂いています。
一方、一口に“名古屋帯”といっても「これが同じ名古屋帯?」と言われる方もおられるほど様々な種類があります。
今回は名古屋帯の歴史、八寸名古屋帯と九寸名古屋帯の違い、使われる素材や用途、そして仕立て方について紹介します。

名古屋帯はいつからあるの?
名称の由来は?

袋帯が形状を示す名称であるのに対して、名古屋帯はどういった経緯でついた名称なのでしょうか。どうやら形状ではなさそうですね・・・。
博多帯や西陣帯などのように、産地がついた名称でしょうか?
帯メーカーながら私達にも見解や資料が無く、由来を調べてみたところ、様々な説があることがわかりました。現在よく言われている一般的な説はもちろん、他もそれぞれ面白かったので、こちらでご紹介します。
(※川島織物セルコンの見解ではありません。)

名古屋女学校の先生 越原春子さんが考えたから

現在、一般的に語られているのは『大正時代の末期〜昭和初期、名古屋女学校の創設者、越原春子(越原はる)氏が考案した』という説です。
越原春子さんは日本初の男女普通選挙で選ばれた衆議院議員としても活躍した職業婦人でした。当時主流であった丸帯は重く扱いも難しかったため、『軽装帯』というジャンルの帯が他にも考え出されていたそうですが、越原春子さんもこうした丸帯の扱いづらさの改善から、手先を半分に折って仕立てる帯を考案されたようです。
それが、大正末期に起こった関東大震災から、簡便性や経済性への意識が高まりにより大流行になったというものです。

東京日本橋の仕立士 杉江ぎんさんが名古屋で仕事をしていたから

『帯 結び百種』という書籍に以下のような記載があります。

名古屋帯の創始者、杉江ぎんさんは、今東京の日本橋で帯仕立ての名人芸に明け暮れている。・・・(略)・・・このように、1つの型に創始者の名前が付けられるとしたら”名古屋帯”など、さしずめ”おぎん帯”と呼んでいいだろう。・・・(略)・・・杉江さんは大正7~8年ごろ名古屋帯の形を考え付いた。・・・(略)・・・今はどんな物でも名古屋帯である。これも実用性があるため、ひとりの生んだ流行が日本中に定着した例である。(杉江さんは名古屋で仕事をしていたから、名古屋帯と名を付けたのであろう。しかし大震災の時は東京に住んでいた)

『帯 結び方百種』 1969年発行 杉江ぎん 著 染織美術社 編 (非売品)

このように、おぎんさんが名古屋で仕事をしていたため「名古屋帯」となったのではないかという説です。

名古屋の裁縫塾の創始者 飯田志ようさんが工芸展に出品したから

こちらも最初にご紹介した説とほぼ同時期に名古屋の職業婦人が考案したという説で、飯田志ようさんは名古屋の裁縫塾の創設者で、中部地方の工芸展にその考案した帯を出品したものが入選した。と言われています。

考えた新橋の芸者さんが名古屋出身だったから

最後に番外編。当社で社史を作成した際に「社史こぼれ話」として社内報に記載の内容からです。
明治時代末期に新橋の芸者さんから「手持ちの帯を簡単に結べる帯に変えてもらえないか」と相談され色々と工夫を重ねたうえ、現在の形になり、芸者さんの出身地が名古屋だったので、名古屋帯と名付けられたという説です。

名古屋帯にこれだけたくさんの由来が存在するのは、大正末期から昭和初期の同時期に各地で流行したからかもしれません。そしてその背景には災害の経験と女性活躍の機運が関係あるというのは間違いなさそうですね。
出来れば当時にタイムスリップして取材させていただきたいものです。

「なごや帯」のなぜ?
川島織物セルコンでは、名古屋帯ではなくひらがなでなごや帯と表記
名古屋帯は一般に「名古屋帯」と漢字で表記されることが多いのに対して、川島織物セルコンでは 「なごや帯」とひらがな表記にしています。「なごや帯」と表記を始めた理由は、当社でも定説はないのですが、名古屋帯は名称の由来が名古屋という地名に関係はしているものの、帯の産地ではないことから、名古屋(地域)との結びつきを直接連想する漢字表記を避けたのではないかと考えられています。
しかし、一般的には「名古屋帯」の表記が多く、このコラムでは一般的な名古屋帯の紹介であることから、漢字表記にしています。

八寸名古屋帯 と 九寸名古屋帯

それでは次に、名古屋帯でよく聞かれる ”八寸”と”九寸”の違い についてご紹介します。

名古屋帯の中には「八寸名古屋帯(別名:袋名古屋帯)」 (以下、八寸) と「九寸名古屋帯」(以下、九寸) と呼ばれるものがあります。その違いは、織る際の幅にあります。

上の写真のように 八寸帯は幅約31cm(約8寸)で織り上げますが、九寸は幅約34cm(約9寸)で織り上げます。八寸・九寸の名称は、この織り上がったときの幅に由来します。
名古屋帯を販売している呉服店などでは 仕立てる前の丸巻き(反物で巻かれている)の状態で扱われるため、お店の方などは「あの八寸持ってきて~」「九寸あったかなぁ?」などというような言い方で、帯のことを表現されたりもします。
ひょっとしたら、呉服の販売に関わる方々などが使い始めた言葉かもしれませんね・・・。

袋帯の簡略版である名古屋帯は、八寸・九寸のどちらもタレ(巻き始める方と反対側の生地)の端をお太鼓に当たる部分まで折り返し、二重に仕立てます。着用する際にはどちらも同じ幅に仕立てられるので、着姿を見て「これは八寸です」「これは九寸です」のようには見分けにくいのですが、八寸と九寸では少し帯の端の仕立て方(かがり)に差があるため、厳密には区別が可能です。

名古屋帯に使われる 素材

帯の素材としてよく知られる絹をはじめ、ポリエステル、綿、麻や変わったところでは藤・楮といった植物繊維を織り込んだような帯もあります。 川島織物セルコンでは八寸・九寸とも、素材は主に絹を使っています。
糸使いの違いによって柔らかさやシャリ感が変わり、八寸は主にしっかりとハリのある生地で芯地を入れずに仕立てられることが多く、九寸は柔らかい生地で芯地を入れて仕立てられることが多いようです。

名古屋帯の用途

「使われる素材」でも少し触れましたが、 しっかりとハリのある八寸(綴帯を除く)は、よりカジュアルな用途で着用される傾向があります。日常生活のちょっとしたお出かけ、例えばカジュアルなランチなどです。ただし綴帯は八寸ですが、格式のある柄のものは、セレモニーなどのフォーマルシーンでも用いられます。
対して九寸は、柔らかい生地に芯地をいれて仕立てられることが多く、繊細な織表現が多いため、カジュアルの中でもお茶のお稽古、観劇などセミフォーマルに近いシーンまで着用OKと言われています。
合わせる着物については『帯メーカーが徹底解説! 帯の種類・寸法・格・着物との合わせ方』でご紹介しています。

仕立て方

名古屋帯の仕立ての中でも、代表的な仕立てについてご説明します。

名古屋仕立て

手先から太鼓までを半分に折ってかがった仕立てのことです。
【メリット】
初めから手先が折ってあるので初心者には結びやすい。
【デメリット】
収納時に開き仕立てに比べて厚みの差が出やすい。
前幅が決まっていて調整ができないため、前幅を調整したい方には不向きである。( ただし、仕立ててから調整はできませんが、あらかじめ前幅を広く取っておくことは可能ですので、大きなサイズが良い方でも名古屋仕立ての帯をお仕立てになることは可能です。)

松葉仕立て

手先の部分を端から約15~30cmくらいを折って縫いつけた仕立てです。
約15~30cmというサイズは、現在、当社が仕立てに出しているものの基準ですが、一般に明確な基準はありません。
【メリット】
手先の仕立て部分が前幅を決める目安となるため、着付けやすい。
前幅の調整ができる。
【デメリット】
開き仕立てに比べると収納時に厚みが出る。

開き仕立て

手先から前柄までを半分に折って縫わず、フラットに仕立てたものです。
【メリット】
畳んだ時に厚みがでず、収納がしやすい。
【デメリット】
着る際に毎度、前柄部分の生地を折る必要がある。(着付け時に手先の確認が必要)

八寸と九寸による仕立て方の違い

また、八寸と九寸による仕立て方の違いは2つあります。

八寸は帯芯を入れず、九寸には帯芯を入れることが多い
八寸は太い糸やしっかりとした織組織であることが多いため、帯芯を入れない仕立てが一般的です。
九寸の生地は一般に細い糸で織られ表現も細かいのですが、生地が柔らかく薄いものが多いため、帯芯(木綿が多い)が必要になります。

帯の端の処理の違い
八寸は初めから生地幅が約31cmで織られているので、端を縫うのみです。
九寸は生地幅が約34cmあるので両端を折って縫い代として中に折り込み、最終的には約31cmに仕立てられます。

木綿素材の帯芯

一般的な仕立ての違いについてご紹介しましたが、仕立ては地域性やお好みがありますので、それらも考慮して仕立て方を決められたい場合は、お近くの呉服店になどでご相談いただくことをお勧めします。

袋名古屋帯って?
最後に、八寸名古屋帯の別名としてご紹介した「袋名古屋帯」という名前について少し。
「袋帯なの? 名古屋帯なの?」と混乱される方も多いこの名称ですが、袋名古屋帯の「袋」は ”袋帯の良いところを取った” という意味だそうです。

今回は、織物の名古屋帯を中心にご紹介しました。
名古屋帯には、これ以外にもたくさんの素材や技法があります。
それぞれの名古屋帯の特徴に合わせた着こなしを楽しんでください。

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最後までお読みいただきありがとうございました。
今後も、和装に関する知識や情報、きものを着て出かける場所のご提案などをご紹介していきたいと考えています。
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