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帯メーカーが解説!きもの文化検定 3級向け 西陣織の基礎知識

帯メーカーが解説!きもの文化検定 3級向け 西陣織の基礎知識

きもの文化検定をご存じですか?「きもの文化検定」とは、きものの歴史や技術、文化背景を深く学び、次世代に伝えることを目的とした検定です。現在、きもの検定を受験する方々の中にきものを愛好されている方や業界関係者が多いとされています。しかし、検定の内容はきものに触れたことがない方や初心者の方にとっても知識を広げ、実生活でも役立つ内容が含まれています。今回は、きもの文化検定3級の中から西陣織に関する問題を解説しながら、きものや日本文化をより深く知るきっかけとなる内容をお届けします。

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きもの文化検定とは

きもの文化検定」は、きものを学ぶことを通じてきもの文化への理解を深め、もっときものに親しんでいただくことを目的とした検定です。一般社団法人全日本きもの振興会が主催し、2006年からスタートしました。受験資格は学歴・年齢・性別を問わず、受講が可能で、2021(令和3)年からは5・4級、3級試験がCBT方式で受験可能になりました。CBT方式とは全国の拠点で受講日時と会場を選択し、パソコンで解答するシステムです。これにより、受験申込から試験実施、合否通知までをインターネット上で完結でき、1年間を通じて好きな日時で受験できるため、より気軽に受けられる検定となりました。試験方法は5〜3級までが四肢択一方式、2級が文言選択と記述方式、1級が文言(語彙)記述と文章記述方式になります。今回はきものに関する中級知識が出題される3級の問題を、京都の西陣織の帯メーカーである川島織物セルコンが解説していきます。

3級きもの文化検定はどんな問題が多いの?傾向と対策は?

きもの文化検定3級は、きものに関する中級知識を中心に、公式教本Ⅰ・Ⅱの中から90%以上が出題されます。また、設問の70%以上に正解すれば合格できるため、公式教本を熟読しておけば、合格できるといえます。初級知識は公式教本Ⅰに掲載されている内容で、中級知識は公式教本Ⅰに加え、さらに深掘りした公式教本Ⅱの内容を含みます。 公式教本は全国の書店やアマゾンなどのオンライン書店、きもの文化検定公式サイトからも購入可能ですので、内容を理解してテストに臨むと良いでしょう。それでは、実際にどのような問題が出ているのか過去問を見ていきましょう。

織物屋がきもの文化検定3級を解説!

きもの文化検定の近年の過去問題集から、「西陣織」に関する設問を取り上げて見ていきます。今回は3級の問題を題材とし、西陣織について深掘りしていきますが、実は2級以上の方にも参考になる内容になっています。3級を受験される方には少し難しく感じるかもしれませんが、試験ではここまで詳しく理解していなくても3級に合格することは可能です。

■一問目_織機(しょっき)について
反物を織る織機についての説明で正しいものを、次の中から選びなさい。2022年3級の問題より

(1)明治時代以前、西陣織には二人がかりで操作する締機が使われていた。
(2)高機は経糸(たていと)を機に張り、踏み木で経糸を操作して織る。
(3)織り手が足で経糸を操作する地機は現在の手織りの源流である。
(4)ジャカード織機は、緯糸を制御する紋紙を使用する。

答えは   (2) 高機は経糸を機に張り、踏み木で経糸を操作して織る  です。

【解説】
西陣織を含む織物全般に関連する選択肢となっています。それでは全ての選択肢を確認してみましょう。

(1)の選択肢について、西陣織では確かに明治以前に2人がかりで操作する機(はた)が使用されていましたが、それは「締機(しめばた)」ではなく「空引機(そらびきばた)」です。ちなみに「締機」とは、大島紬の製作工程で使用される機のことです。

空引機模型/西陣織会館所蔵

(3)の選択肢にある「地機(じばた)」とは、このイラストのように、地面に座った状態で織る機のことで、手織りの源流といわれています。

地機での製織風景

(4)の選択肢であるジャカード織機についてです。こちらは 過去の問題にも頻出しています。ジャカード織機は、西陣織の明治期以降の発展に深く関わった織機です。

ジャカード織機は、1804年にフランスの発明家ジョセフ・マリー・ジャカールによって発明された織機で、紋紙によって経糸の上げ下げが細かく制御できるため、複雑な柄を織り込むことが可能です。日本では、1877年に西陣の織大工、荒木小平が輸入されたジャカード織機を参考に木製の織機を2台模造しました。その後、1880年に佐々木清七が荒木小平の模造したジャカード織機を購入して試し、その販売に成功したことで、西陣の織業者たちの間にも広まりました。
ジャカード織機は、紋紙を使用し経糸の上げ下げによって柄を表現する織機です。現在では、この紋紙のデータは電子制御システムに置き換えられていることが多く、かつての紙の紋紙の役割をデジタルファイルやプログラムが担うようになっています。しかし、川島織物セルコンでは一部の織物の復元においては現在でも紋紙を使ったジャカード織機を使用しています。

紋紙を使用したジャカード機

最後に、正解となる(2)について解説します。「高機(たかはた)」とは地面に座った状態で織る機である地機に対して、高い位置で織られる織機です。腰板に腰掛け、踏み木を踏んで2枚の綜絖(そうこう)を交互に上下させて織る手織り機です。地機と比較して、高機は丈が高いのが特徴です。こちらが川島織物セルコンで実際に使用されている高機です。

川島織物セルコンで使用している高機

次に、西陣織という名前の由来となった地名「西陣」に関する設問です。

■二問目_西陣織の歴史
西陣という呼称の歴史は550年余りですが、西陣の織物の起源とされる時代はいつ頃ですか、次の中から選びなさい。
2022年3級の問題より

(1)平安時代以前
(2)室町時代
(3)安土・桃山時代
(4)江戸時代

答えは  (1)平安時代以前   です。

【解説】
一般に「西陣」とは、京都の北西部に位置するエリアを指します。具体的には、北は北大路通、南は丸太町通、東は烏丸通、西は西大路通に囲まれた地域です。現在、当社は洛北地域と呼ばれるさらに北のエリアに本社工場を構えていますが、元々はこの西陣で発祥した帯メーカーです。公式教本Ⅱにも「平安時代以前からこの町では、織物が本格的に行われていたようです」と記載されていますが、平安時代以前の5〜6世紀頃には大陸から、渡来人である秦氏の一族が、山城の国(現在の京都・太秦付近)に定住し、養蚕と絹織物の技術を伝えています。その後、飛鳥時代や奈良時代を経て、平安京に遷都が行われると、朝廷は絹織物技術を受け継ぐ工人(たくみ)たちを「織部司(おりべのつかさ)」という役所のもとに組織し、綾・錦などの高級織物を生産し、国営の織物業が営まれていたと言われています。織物の工人たちは、現在の京都市上京区上長者町付近に集まりました。そこは「織部町」と呼ばれ、現在の西陣地域で織物業が盛んになったルーツといわれています。(参考:西陣織工業組合HP)

それでは、最後に織物を織る際に使用される道具についての設問に移りましょう。

■三問目_織物を織るための道具
図のような西陣織等で使われる緯糸を通す道具は何といいますか、次の中から選びなさい。
2022年3級の問題より


(1)矩「く」
(2)茅「ち」
(3)杼「ひ」
(4)杵「き」

答えは   (3)杼(ひ) です。 

【解説】
杼とはどのようなものか、実際に見ていきましょう。杼は英語では「shuttle(シャトル)」とも呼ばれ、織物の種類に応じてさまざまな型式があります。例えば、板杼、ラグシャトル、すくい杼、ローラーシャトルなどがあり、糸の質や織る物に合わせて使い分けます。こちらは川島テキスタイルスクール(※)を含む、当社で使用している杼を、大きさの順に並べてみたものです。

川島織物セルコンで使用している杼
右から帯(紋織)用、緞帳(綴)用、帯(紋織)用、川島テキスタイルスクールで使用している板杼、緞帳(綴)用、緞帳(綴)用、帯(紋織)用

川島織物セルコンでは、15センチほどの手織り用の小さな杼から、動力を搭載した織機で使用される37センチほどの大きな杼まで、さまざまなサイズの杼を使用しています。下の画像のように、動力を使った織機では左右の「杼箱(ひばこ)」に杼が納められ、この杼が経糸の間を通ることによって織物が織られます。また綴織の帯などでは杼を手で持ち絵柄を描くように織っていきます。

上:動力織機で織っているところ(紋織)
下:帯を手機で織っているところ(綴織)

西陣織会館館長に聞く、西陣織の魅力

西陣織や織物に関する設問を通して、知識がついてきたところで、さらに詳しく西陣織を知るために、京都市上京区にある西陣織会館を訪ねてみました。西陣織会館は川島織物セルコンも所属する西陣織工業組合が運営する施設で、一般に向けて伝統工芸である西陣織の技術や文化を広めるため、見学や体験型のプログラムを開催しています。また、販売エリアでは西陣織製品を扱っています。ここで、西陣織の魅力を日々発信しておられる大槻(おおつき)館長にインタビューし、西陣織の魅力について伺いました。

―増加する海外来館者と人気の体験プログラム
西陣織会館ではさまざまな西陣織にまつわる展示や体験を通じて西陣織を学ぶことができます。観光地である京都のため、来館者の7〜8割が海外の方であり、最近ではヨーロッパや中東、イスラエルなどの方が増えています。コロナ以前は年間7,000~8,000人を受け入れていた修学旅行の学生の皆さんが分散されましたが、現在は学生の皆さんだけでなく海外の皆さんにも織物を体験いただけるようになりました。

西陣織の歴史

西陣織会館 大槻館長

―西陣織の起源は平安以前から、官営からの独立と職人たちの自由な挑戦の歴史
西陣織の歴史は、5世紀頃、 中国や朝鮮半島から京都に織物が伝わったことから始まり、8世紀後半に京都に平安京が築かれる時にはすでに、宮廷の織物が作られていました。平安遷都に伴って、織部司(おりべのつかさ)という役所が設置され、職人たちは綾織や錦織などの高級織物を生産することが奨励されました。しかし、 12世紀の平安時代後半になると、こうした官営の工房は衰退し、職人たちは自ら独立した織物作りを開始します。職人たちは集まり、自由に織物を製作し、「大舎人の綾」や「大宮の絹」といった特色ある織物が誕生しました。また、中国の宋から伝わった技術をもとに唐織(からおり)という重厚な織物が生まれ、寺社の装飾として重宝されるようになったそうです。

―「西陣織」と呼ばれるようになったのは応仁の乱以降
「西陣織」という名前が使われ始めたのは、室町時代の応仁の乱(1467-1477年)後からです。応仁の乱で京都が戦場となり、多くの職人が各地に離散しましたが、戦乱が収まると、彼らは京都に戻り、かつて山名宗全率いる西軍が陣を構えていた北西部で織物作りを再開しました。現在も京都市上京区の堀川通五辻には宗全の邸宅跡が残り、歴史的な背景を伝えています。また、2022年には応仁の乱から起算して555年目を迎える節目として「西陣555」と銘打った記念事業が開催されていました。

次世代にも伝えていきたい西陣織の魅力

手紡ぎ糸を使用した織物を織る体験や帯や様々な西陣織製品も販売している

―西陣織の先染めと分業制が生み出す西陣織の魅力
西陣織の魅力は多くありますが、特に「先染め」「分業制」「少量多品種」といった特徴があります。私たちが海外からのお客さまや修学旅行の学生の皆さんなどに説明する際にも、この3点のポイントをお伝えしています。「先染め」は、糸を染めてから織る技法で、色彩が豊かで深みのある作品を生み出す要因となります。「分業制」では、各職人が特定の工程を担当することで、技術が向上し専門性が高まります。最近では技術の進歩により、量産が可能な製品も増えていますが、依然として「少量多品種」で分業制による専門的な技術の両方を持ち合わせている点も西陣織の魅力かと思います。少量多品種は、分業制によって織元による特徴が表れやすいということにも置き換えられます。それぞれの織元が自由に少量、特徴のある織物に挑戦してきた文化があり、いろんな織物を織るのが西陣織の魅力でもあります。さまざまな織元が特徴をある織物を織っていますが「西陣織」全体的には、銀糸や金糸を巧みに使う豪華な織物とその技術はやはり特徴的です。

これらの豪華さが西陣織の魅力の一つといわれています。どちらかというと、軽やかさよりも重厚感のある美しさが魅力の一つです。この重厚感があるからこそ、公式な場で使われることも多いです。

―若者に受け継ぎたいきもの文化と西陣織の魅力
西陣織は、能衣装や雅楽などの伝統的な衣装や、寺社仏閣で用いる金襴(きんらん)、さらにはネクタイ生地、意外なものでは駅伝、マラソンのたすき、ゴールテープといった多様な用途に利用されています。しかし、生産の多くは現在に至るまで帯地やきもの周りの製品が大半を占めています。近年、きものの需要が減少する中で、各社は小物を中心にさまざまな挑戦を行っています。「西陣555」や「西陣の日」などのイベントは、多くの方々に西陣織を知っていただくための重要な取り組みの一つです。親しみやすさを持ってもらうために「西陣くん」というキャラクターも誕生しました。

西陣織公式キャラクター「ニシジンくん」

さらに、西陣織会館では、少量多品種で織元の特徴を生かした小物の企画販売や西陣織の魅力を体感できる体験コンテンツ提供に取り組んでいます。例えば、今年は大河ドラマの影響で、所蔵品展「西陣織で彩る平安絵巻」に合わせた十二単の着用体験の申し込みが増加しています。最近では毎日のように体験予約が入っており、衣装はすべて絹でできた西陣織の十二単で、とても人気があります。

きもの自体は、元々サステナブルで無駄のない文化だと思います。西陣織はその独自の技術や美しさ、歴史的背景を持ちながら、現代のライフスタイルにも合った形で進化しています。私たちもこの伝統を大切にしつつも、次世代へと繋げていきたいと考えています。

最近では、レンタルきものを着る若い方々を見かけるようになり、きものに触れる機会が増えているように感じます。きものレンタルを通じて、着物に触れてもらうことはもちろん、日本文化の一つとしてきものへの理解を深めていければと願っています。また、小さい頃から織物やきもの文化に触れる体験を積極的に行っていくことで、きものに対する理解がさらに深まると考えています。

西陣織をさらに深く知る

さらに深く西陣織を勉強したい方に西陣織を知ることができる施設やイベントを紹介します。

西陣織会館

西陣織会館では、伝統的な西陣織の魅力を体感できるさまざまな展示や体験イベントを開催しています。西陣織の歴史や技術を学べる資料展示や、職人による実演、実際に十二単を着用できる体験など、産地ならではの体験ができます。
詳細はこちらをご覧ください。

川島織物文化館

川島織物セルコンは、緞帳や帯、カーテンなどの美術工芸品やインテリア商品を生産する西陣発祥のメーカーです。川島織物文化館は川島織物セルコン本社に併設された企業博物館で、織物の制作過程で描かれたデザイン画や試織や、世界中から集めた染織資料などを中心に年4回展示を入れ替えながら公開しています。場所や開館時間の詳細はこちらをご覧ください。

西陣の日

「西陣の日」は毎年11月の第一土曜日に西陣織会館で開催され、西陣織の魅力を広めるイベントです。展示や体験ワークショップ、職人による実演が行われ、来場者が西陣織の歴史や技術を学ぶことができます。

おわりに

今回は、過去問題の解説と西陣織を日々PRされている西陣織会館の館長インタビューを通じ、西陣織の魅力をお伝えしました。きもの検定は、知識の習得にとどまらず、日本の伝統文化を知り、楽しむための貴重なきっかけとなります。 すでにきものを愛好されている方はもちろん、きものに触れたことがない方や初心者の方にも、ぜひ受験を通じて、きものやその歴史と文化に触れてみていただきたいです。 今後も西陣織の帯メーカーとして、さまざまな情報をお届けできればと思っておりますので、どうぞお楽しみにお待ちください。

なお、以下のリンク先にアンケートを設置していますので、ぜひ記事に対するお声をいただけると嬉しく思います。お客様のお声は、サービス向上の大切な指針となります。皆様と一緒に西陣織、織物、きもの文化を盛り上げていけたら幸いです。
【アンケートはこちら】

※ 川島織物(現・川島織物セルコン)が1973年に創業130周年の記念事業で設立・開校した学校です。京都で手織りを主体に染織を教えており、基礎から専門技術まで幅広く学べるコースを用意しています。特徴は少人数制で、実習を中心とした密度の高い授業であること。確かな技術と表現力を基盤に、一人ひとりが持っているセンスを生かして創造性を高め、美しい織物を作ることを大切にしています。

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